プロローグ

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 田窪由美は小柄な美人である。  父親が一代で不動産王と言われる迄の財を成した田窪雄一郎だ。  傍目には何不自由なく育てられたのだが、母親が由美を産み落とすと同時に天国に召され由美は産まれた時から母の愛情を知らず乳母に育てられる。  雄一郎は心から愛していた妻民子が他界した後は尚いっそう仕事に打ち込む。  そのせいか由美は周りの人間に甘やかされて育てられてきた。  平成五年春…由美23才彼女には常に付き人がいた家では教育係、外に出るときは運転手兼監視役が影のように。  ある日彼女は百貨店に買い物に来たときに大胆な行動に出る。  女性の下着売り場で逃走することを思い付く。  大学を卒業以来一人で行動することは無かった。  もっとも学生の時もキャンパス以外は運転手の鈴木の送り迎えで学友と一緒に遊び回ることはなかった。  一際目立つ由美は常にキャンパスのアイドルだったが恋愛すら出来ず親友と呼べる友達も出来なかった。  そんな自分の人生に最近やるせなさや疑問を感じ始めたのだ。  『このまま親の言いなりに日々を送りたくない』と、そして今日一人で暫く旅行をするために逃亡を試みる。
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