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鈴木は目のやり場に困っていた、これ迄ランジェリーショップに買い物に来る場合、乳母だった白木綾子が付き添って来るのだが、今日に限って由美が突然「下着を買ってくる」と、かってに歩いていく。
「あっ!待って下さい御嬢さん」鈴木の声を無視して由美はランジェリーショップに入っていったのである。
由美は五六枚ランジェリーを選ぶと試着室に入り店員を手招きで呼ぶ。
「如何ですか?」未だ30前と思われる店員がやって来た。
由美は「お願いがあるの」と店員に話しかける「何でしょう」と微笑みながら店員は聞き返してくる。
由美は店員の耳元で小声で「振り返らないで聞いて欲しいの…お店の前のグレーのスーツを着た男に付けられてる様な気がするの…下着は後日取りに来るので私を逃がせてほしいの!!」そう言って財布からクレジットカードと現金弐万を出す。
店員は最初驚いた顔で由美を見ていたが、直ぐに察したのか「分かりました何とかしましょう…けど此は受け取れません」と現金は由美に返す。
店員はクレジットカードの処理を素早く済ますとカードを由美に返し、鈴木を引き付ける内に社員の控え室に隠れるように指示する。
暫くして店員は鈴木の方へ歩いて行くと「何かお求めですか」と笑顔で話しかける。
鈴木は少したじろぎながら「先程中に入っていった女性の連れですが…出てくるのを待っています」と店員に言った。
「先程来られた小柄の綺麗な女性の方ならあちらの出口から五分くらい前に出ていかれましたよ」と言って掌で指してくれた。
「しまった」鈴木は慌てて由美を探した。
然し見つかるはずもなくその旨を社長の雄一郎に報告する。
「そうか…君は引き続き周辺を探して居てくれ応援を送るから」と言って雄一郎は電話を切った。
『う~ん、どうしたものか』雄一郎には何れこの様な事態が起こり得る予感は有った。
由美を溺愛するがゆえ由美の自由な行動を抑制してきた。
小柄で可憐な我が嬢を見るたびに亡くした妻の面影を重ねていたのだ。
雄一郎は社長室の椅子に座ったまま葉巻に火をつけ暫し若かりし日々を回想する…。
店員の助けを借りて由美は変装し、なんなく鈴木から逃れる。
百貨店を出て直ぐタクシーに乗り込み福岡空港に走る様に指示する…。
タクシーは199バイパスを走り日明インターよりハイウェイを走り福岡インターで下りて空港に向かう…。
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