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森の数ヶ所にある高い岩の塊。それが英語のU字型に削られており、クラップはその行き止まりに居た。
本来は猪を追い込む為の場所だったが、気付けば立場が逆転。
聳え立つ岩山から抜け出す脚力も無ければ、力で猪をねじ伏せる事も出来ない。
正に、絶体絶命のピンチが大きく口を開けている状況である。
じりじりと間合いを詰める猪は、縄張りに立ち入ったクラップに憤怒の表情を見せていた。
「い、いやーそれにしても今日は良い天気っすね。お日様が眩しいっすよ」
直後、雨雲から轟音と共に雷が落ちた。直に一雨来るのは確実な、どんよりとした空である。
「あれっ、さっきまでは快晴だったのにおかしいっすねー。こりゃあ一雨来る前にお家へ帰った方が良さそうっすよ、なは」
出来るだけ柔らかい口調で、猪に帰宅を勧めた。
そんなクラップの配慮も、猪には通用しない。豚の鳴き声の様な鼻息を出し、今にも突進して来そうである。
「こうなったら、奥の手っす」
そう呟き、両足を広げて腰を落とした。
「あーっ、あんな所に裸の姉ちゃんが居るっすよーっ!」
猪の後方を指差し、高らかに嘘を叫んだ。
それに驚いた猪は、体をほんの一瞬だけ後ろへ向ける。
誰も居ない事を確認した猪は、けたたましい鳴き声を響かせてクラップの方へと向き直った。
だが、攻撃態勢に入ろうとした猪の目は荒々しい岩肌を捉えるばかりで、つい先程まで居た金髪の少年を映す事は無かった。
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