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「ここっすよ、アホ猪!」
放たれた声を聞いて、猪は目一杯首を振り上げる。
そこには、両手に大きな扇子を持ち、羽の様に上下させているクラップの姿があった。
クラップの言った奥の手とは、この事である。
小柄で身軽な為、巨大な扇子を羽ばたかせるだけで、体を宙へと押し上げる事が出来るのだ。
「流石の君でも、空には突進出来ないっすよねっ。ははーっ、頭脳じゃオイラの方が一枚上手だったって事っすよー」
猪を見下ろし、クラップは上機嫌で扇子を振り続ける。
「ブギーッ、ブギーッ」
地面を蹴って叫ぶ猪が、クラップには心底可愛らしく見えた。
「さーて、そろそろ二人の所へ戻るっすかねー。あんまり遅くなるとまた雷落とされるし、もう直ぐクランが溜まるから問題無いっすよ、うん」
自己完結を済ませ、クラップは優雅に空の旅を満喫する。
扇子を斜め下に振り、猪の上空を泳ぐ様にして通過した。
暫くは猪も追って来るだろうが、二人の下まで行けば安心だ。クラップはそう思っていた。
金色の短髪と青いマントが風で靡き、ゆっくりとした速度で空の道路を進む。
「それにしても、本当に一雨来そうっすね。扇子が濡れる前にとっとと――んぎゃーっ!」
雨を心配する必要が無くなったのは、幸か不幸か。雨雲を見上げてぼやいた刹那、雷直撃と言う奇跡的な確率の貧乏くじに、見事当選したのである。
名前が示す通り、拍手の様な音を上げながら、クラップの体内に電気が駆け巡った。
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