プロローグ

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シャオの一言でクラップが居る方を向いた男は、舌を鳴らす。 「ちっ、世話の焼ける奴だな。フィルト、来い!」 尻に刺さる矢を抜いて立ち上がった男は、冷静にそう叫んだ。 直後、二人が出て来た草村の茂みから、疾風が駆け抜けた。 「ガルウゥゥッ、ガハァーッ」 現れたのは、一匹の狼。雪の様に真っ白な体躯で、短く刈り揃えられた毛並みを荒々しく逆立てている。 天に真っ直ぐ耳が伸びており、口許から覗かせる牙は、犬との違いを決定付ける程長く鋭い。 フィルトと呼ばれた狼は、鼻筋に何本もの縦皺を作り、電光石火で猪に詰め寄った。 刹那の出来事。クラップに気を取られていた猪は、フィルトの存在を感知する間も無く、高々と宙を舞う。 フィルトが放った突進と言う名の一撃は、己の五倍はあろう猪の巨体、その横っ腹に凄まじい衝撃を与えた。 弧を描く様にして宙を舞った猪は、悲鳴を上げる事も無く、地響きと共に大地を揺るがした。 数秒程全身を痙攣させた後、猪は一時の眠りに入る。 「殺さなくても良いぞ。クランも手に入った事だし、臭い豚より上等なもん喰わせてやるよ」 組んでいた腕を解きながら言った男は、ベルトに紐を通した茶色い麻の袋を叩く。鉱物同士がぶつかり合い、高音を奏でた。 「やっぱり、ダーリンの中で猪は豚なのね……まあ、良いわ。フィルト、おいでー」 弓矢に付いた紐を首から通して背負ったシャオは、嘆息気味に男を罵り、腰を屈めてフィルトを呼んだ。  
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