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でもいくら長年ピアノを習っているといったって、所詮は趣味程度のものだと自覚していた。
それで三年生になり卒業後の進路をいやでも考えなくてはならなくなったあたしは、あっさりとピアノをやめた。
とはいっても、自分の将来について今まで考えたこともなかったし、これといってなんの目的もないあたしにとって高校を卒業したあとの事はやっかいな課題だった。
ある日クラスメイトがそんなあたしに言った。
「あんたは堅く考え過ぎよ。どうせ夢なんだから、叶えばラッキーくらいの気持ちでいいのに。何かひとつくらい夢があったほうが毎日楽しいわよ?」
冗談ぽく言いながらも彼女がちゃんと自分の夢を持って、そのために努力しているのをあたしは知っていた。
それを見ると、夢を持つ彼女が羨ましかったし自分が社会から取り残されそうで焦った。
でもその反面、結局最後は『やっぱり夢は夢でしかなかった』なんて言って、なんとなく短大にでも行って、適当な会社に就職して、何年か勤めたら結婚退職して、子供を産む……っていうのがオチかなとも思ったりした。
そして実際、あたしはそんな感じでいいと思っていた。
そうしてあたしはしばらくの間ピアノを忘れた。
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