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「来月から、来なくてイイよ」
突然、上司から告げられたクビ宣言。
理由は簡単だった。
「君は営業マンだ。営業は売上をあげてこそ営業だ」
つまり、営業成績の悪い人間は要らないと言う事だ。
元々、優しい性格だけが取り柄だった桐谷 秀司(きりや しゅうじ)には、営業は難しかったのかもしれない。
ただ…、
両親や友人に「頑張ってくるから!」と言って故郷を離れた秀司にとっては、リストラと言う言葉は酷く重く、辛い言葉だった。
秀司は「どうか!会社に残らせて下さい!お願いします!」と何度も頭を下げて頼んだが…。
上司からの「決定事項だ」の一言と、同僚からの哀れみの視線が向けられただけだった。
秀司は絶望した。
何の為に頑張ってきたのか…、全てが嫌になった。
そして、秀司は自殺を決意し、一人車に乗り込んである場所を目指して移動した。
その場所とは「四ッ谷峠」と言う、ここらでは有名な心霊スポットだ。
「夏ならともかく、まだ3月の今なら…殆ど人は居ないよな」
秀司は自分を納得させるように呟きながら、道路脇に車を止めて、一人暗い林の中へと入って行った。
林の中は、月明かりすら差すことのない暗闇で、秀司はネクタイを緩めながら、手探りで前進して行った。
「やっぱり…心霊スポットなだけはあるよ。
何か、闇の色が違う気がする」
そう言いながら奥へと進む秀司の目に、何やらうっすらと輝いている場所が飛び込んできた。
「アレ、何だ?」
不審に思った秀司は、輝いている方に向かって歩いて行く。
そして、ある程度光に近付いた所で、輝いているのが人の輪郭をしている事に気が付いた。
「…エッ?
ひょっとして人か?」
秀司は、余り確信の無い口調でそう呟く。
更に光に近付いた時、その輝いているのが人だと確信した。
「大変だ!
お~い!大丈夫か~?」
秀司は、自殺しに来たハズなのだが、この時には既に自分が自殺を決意していた事すら頭に無かった。
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