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「………」
「……ぅぁ…」
おかしいと思った。いくら寒がりだといえ、いくら帽子好きだからといえ、流石にこんな春真っ盛りな日にニット帽なんて被る人はいないだろう。おかしいと思ったんだ。
「………、」
嫌がるつなよしから無理矢理帽子を取ると、そこには人にはない獣耳が生えていた。
おまけにセーターを脱がせば、やっぱり人にはない尻尾が現われる。全てを見られてもなお着ていたものを返せと、必死で背伸びをするつなよしを尻目に、ひばりは一人ふむ、とそれを見つめ、どこかの学者のようだった。
「あぁ…」
これで男の言った『きつねちゃん』という言葉にも、追われていたことにも納得がいく。確かにこれは……いや、この子は珍しい。というのか…新種、なのだろうか…。何にせよこの子には追われても仕方が無い要素が沢山あった。
あの男の口調と容姿からすると、捕まえて高く売ろうという魂胆だったのだろう。
「つなよし……きつねだったの」
「……ぅ"ー…」
無理矢理着ぐるみを剥されて怒っているのか、つなよしはグルルと喉を鳴らした。やはりひょこっと生える耳が目に付く。
「ごめんごめん。ほら、洗ってあげるから」
そう言ってあやすように風呂に入れてやると、この子はやたら気持ち良さそうに湯船に浸かるのだ。
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