お祭り男爵とお祭り女王のお話

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少女はぼーっとしたままヒューイを見つめ返事をしない。心なしか顔も赤い。 「…………」 ん?なんだ? 顔の前で手を振ってやるとランは小さく呟いた。 「………………好き」 いきなりな台詞にヒューイが目をぱちくりさせていると、ランは遠慮がちにヒューイの胸に顔を埋め抱き着く。 「はあぁぁ!?」 ヒューイは驚き思わず引き剥がそうとするが、女の子に強引にする訳にもいかないようで離せない。 困り果てヒロに助けを求め視線を向ける。 「男爵お前凄いなぁ……ランを泣き止ませるなんて……しかも人見知りのランに一目惚れされるとは」 ヒロは一人感心しながら頷いていて助けをよこそうとしない。 くっ……どうしろと? ヒューイは自力でなんとかしようと少女に声を掛ける。 「なあラン……ヒロ手の怪我が酷くてさ。早く帰って治療しなきゃいけないんだ……だからランも帰らなきゃ」 ランはヒューイから離れてまた瞳を潤ませる。 そして地面にバタンと豪快な音で綺麗に受身を取って仰向けに寝転がり、手足をバタバタさせ地面に打ち付けながら叫ぶ。 「ふえぇぇぇん!!嫌やーー!!うちぃ……まだ輪投げとか射的とか金魚すくいしてへんもぉん!!男爵とまだ一緒に居るもぉん!!」 駄々っ子よろしく泣き叫ぶ。何事かと周囲の視線が突き刺さる。 「ヒロ……どうすんだこれ……」 ヒューイはあまりの事態に対処できず額に汗が浮かぶ。親の気持ちを擬似体験した十歳の夏…… 「こうなったら説得は無理だな……なんせアイツはお祭り女王だし祭に関しては妥協しないからなぁ」 慣れているのか早くも諦めの境地に達し溜め息をつくヒロ。
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