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真夏の夜。
祭囃子が鳴り響き、神社へと続く屋台の列は賑わいを見せている。
そんな笑顔が溢れている祭の夜……二つの悲しみに満ちた表情があった。
「なあ……ラン……」
「…………」
「ヒューイは……」
ゆっくりと続ける。
「死んだんだ……」
「……ひっく……ぅぅ」
「もう帰ろう?悲しくなるだけだよ……」
まるで自分に言い聞かせ納得させるかのように呟く……
そう……先の大戦でヒューイは命を落としたと国中に知らされた。
ヒューイはその命を犠牲にエスラを勝利へと導いたのだ。
ひたすら戦いに生きた幼き命……それは人々の目にはどう映っているのだろうか……
「違うもん!!ヒューイは……ヒューイは約束したもん!!……また会うって!!絶対来るもん!!」
ランは唇を噛み締め瞳に涙を溜めて叫ぶ。
「……俺だって……俺だって!!信じたいよ!!けど死者は生き返らないんだ!!いい加減分かれよ!!!」
ヒロも泣きながら悲しみに染まった思いをぶつける。
「……ふぇっ……うぁぁん!!……約束……したもん……うち……いっぱい……いっぱい……焼きそば……練習したもん……ぅぅ……男爵……美味しいなって……食べてくれるもん!!」
ランはヒューイに射的で取ってもらった絆創膏の貼ってあるクマのぬいぐるみを力いっぱい抱きしめ涙で地面を濡らす……
「……ラン」
ヒロはランを抱きしめてやる。ランは更に勢いを増して泣き出した。
「ラン……今度ヒューイの墓に行こう……信じるのが嫌でまだ行ったことないけどさ……きっとあいつ寂しがってるよ……焼きそば供えてやろう……きっと喜ぶよ」
ランは泣きながら何度も頷いた。
短い時間でできた確かな強い絆……
ヒューイは最後の最後に一番欲しかったものを手に入れた。
守りたい者を見つけ……それを守り通すために戦い抜いた……
それは何も見つけられずにただ戦い命を落とすだけよりも遥かに幸せなことだろう……
「なあ、ヒューイ……そっちにも祭はあるのか?……今度は絶対三人で回ろうな……」
突如突風が吹き荒れどこからか風に乗りふわりと何かがヒロとランの目の前に飛んできた。
ひょっとこのお面だ……
ゆっくりと目の前に落ちる……それはまるでヒロの言葉に返事をするかのように……
祭囃子が鳴り響く……それはまるでヒューイへの鎮魂歌のように風の中に消えていった……
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