お祭り男爵とお祭り女王のお話

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少年の両隣には、用意されていた袋に金魚が入り切らないために借りたバケツが置いてあり、バケツの中には金魚が溢れる程所狭しと泳ぎ回っている。 ちなみに金魚屋の水槽には一匹も金魚がいない。 どうやら少年が一人で全てすくってしまったようだ……網一つだけで。 金魚屋台の店主らしきパンチパーマで、ねじり鉢巻きをした髭面のおっちゃんはオーマイガッ!!とでも言うように頭を両手で押さえ、泣きながら「ノォォォォォ!!」と叫んでいる。 涙がちょちょぎれ、世界の終わりが来たとでも聞かされたかのように狂ったように絶叫している。 今にも更に一段階上の姿にでも変身しそうな雰囲気を醸し出している金魚屋の店主。 「おっちゃん!俺金魚すくうのは好きだけど金魚はいらないから返すよ!」 そう言って少年はバケツを持ち上げ、金魚をどばどばと勢いよく水槽に戻したので辺りに水しぶきが飛び散る。 それを見た店主は感動したように手で鼻をすすりながら叫んだ。 「坊主……お前ってやつは!!好きだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 そう言って、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔そのままに抱き着いてくるおっちゃん。 「止めろおっちゃん気色悪いだろ!!ギャー!!鼻水が!!てか痛い!痛いから髭が!!離せぇぇぇ!!」 その時店主は、ハッと何かに気付いたそぶりをし少年を離して問う。 「坊主……もしかしてお前、最近ここいら一帯の祭で出現するという、お祭り男爵じゃないのか?」 少年は面倒だなとでもいうように、視線を逸らし頬をかきながら答える。 「まあ、そう呼ばれてるみたいだな……」 「やっぱりか……物凄い腕のくせに本当に欲しい賞品以外は取っても目もくれずに店に返して去って行くとか」 おっちゃんは腕組みをし、記憶を探るかのように少し眉間に皺を寄せて話を続けた。 「店主が泣き崩れる場面を見るという行為だけに快感と言う名のワインを得ることができ、それを堪能する事だけが生き甲斐ということから、お祭り男爵という通り名が付けられているとかどうとか……」
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