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雑踏の中、小さな少女が
自分より少し小さな少年を宥めるように優しく頭を撫でた。
「もぅ大丈夫だよ。怖いことなんてないから」
膝を抱え咽(むせ)ぶ少年を労るように少女は云った。
「大丈夫よ。私が傍についてるから、怖いことなんて無いのよ」
姉のように、母のようにそう語る少女の瞳は涙を湛えていた。
それでも涙を拭おうとはしない。
小さな二人には、希望なんてなかったから。
少年は明日をも知れない今を悲観して泣く。
少女は、明日や今を悲観して泣くことは出来なかった。
泣いても何も変わらないことを少女は知っていたから。
「ねぇ。私だけじゃ不満?」
淋しげにかけられた言葉に少年は顔を持ち上げ、少女を見る。
泣き崩れてしまいそうな顔に湛える笑みは切なさと安堵感を少年に与えた。
「…ううん。そんな こと、ない …」
途切れがちな言葉に少女は小さく微笑む。
「本当?」
「うん」
しゃくり上げ云う声に強さはないものの、少年の瞳は強く少女を映した。
少年は服に顔を押し付け涙と鼻水を拭い、少女の手をとる。
「サラが居てくれるなら、大丈夫」
泣き腫らした目を細め少年は笑う。
少しでも気持ちが伝わるように強く強く手を握った。
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