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自嫌の部
さて、この部は自嫌、つまり自分に嫌悪感を持った二人を主軸に話しをするので、彼らの一人称という形態に変えたいと思う。では、どうぞ。
カヤ
電車から下りた私とマリオ君は、終始無言で穐山家を目指した。
マリオ君はほとんどいつもそうなので、その無言の原因は私にあるのだが、私はその原因を、全てマリオ君に押しつけてしまっていた。
子供が喧嘩のきっかけを押しつけ合うように。政治家が全ての責任を秘書になすりつけるように。
人間は弱い生き物だ、としみじみ思う。
その弱さは私の中で膨れ上がり、嫌な感情になり、私を蝕んでいく。逃れる事はできない。私が…人間である限り。
歩いている内に、家が見えてきた。
不思議だ。地図等を見ていないのに、なんで…?
まさか…。
そう、それはマリオ君のおかげだった。マリオ君が何気なく、私をリードしてくれていたのだ。
その瞬間、私の中のモヤモヤが綺麗さっぱり消え去った。曇りの日に、突然雲の隙間から差す日の光のよう。それは、奇跡?いや、違う。これは、私と彼との、軌跡の結果なのだ。
マリオ
カヤの無言の原因は解っていた。俺のせいだ。俺がもっと気の効いたことを話してやれれば、彼女もこんなに不機嫌にはならなかっただろう。
今日出掛けの時に覚えておいた駅から穐山家への道を歩きながら、俺は時たま後ろのカヤを振り返っていた。
カヤは、ずっと俯き加減で歩いていた。転ばないか、心配だ。
仕方ないのだ。俺は、口下手。自分の思っていることを上手く人に伝える事ができない人間なのだ。
だから、だから俺は、カヤが羨ましかった。天真爛漫な、少女のような純粋な心を持つカヤ。彼女は俺の目標であった。
しかし、そんな彼女との仲でさえ、俺は壊してしまうかもしれない。些細な事の積み重ねで、人間関係は脆くなるものだ。
家に着く。と、カヤが突然明るくなった。理解ができないが、彼女の笑顔は俺には眩しすぎた。
「マリオ君、ごめん。私が子供だったから…」
謝るべきは俺だ。なのに俺は頷くだけ…。
俺は卑怯なのだ。自分から進んで人に触れに行こうとしたことが無い。
喧嘩をしても、相手が謝ってくるのを待つばかりで、こちらから謝ったことは無かった。
変えなくては…。思っていても、口に出さなければ世界は変わらない。
よし。
どこまで変われるかなんて、やってみなければわからないものだ。
そう決意し、俺は、インターホンを押した
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