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実見の部
カヤとマリオは出迎えてくれた薫に恐縮しながら、家に上がった。
「こちらへ、どうぞ」
薫は一度も振り向かずに、二人を客間に通した。
穐山家はかなりの豪邸であり、客間まで、二人は10分程歩かなければいけなかった。到着すると早々に、薫はいなくなる。
二人は悪いと思いつつも、真ん中にある豪華なソファに腰掛けた。
一段落つく、と薫が盆を持って戻ってくる。
その上には、三つの茶碗と、写真が一枚乗っていた。
粗茶ですが、とお茶を差し出すと、薫は二人に写真を手渡した
「これが、あの子の写真です。持ち帰って活用してください」
「あ、はぁ…」
そこには、可愛いペルシャ猫が映っていた。首輪には『GT』というイニシャルが入っていて、カヤは思わず人気漫画のテレビ特別版を思い出していた。
それにしても、随分と準備がいい、と普通の読者の方ならば思うだろう。しかし断言しておくと、薫は、犯人ではない。
「あの、その猫ちゃんが」
「本多忠勝です」
「武将!?あ、すいません。本多忠勝君が行きそうな」
「本多忠勝はメスです」
「メス!?あ、じゃ、じゃあ本多忠勝ちゃんが行きそうな場所に、心当たりはありませんか?」
「本多忠勝は家猫です」
「…」
どうにも話づらい。マヤは思った
「家猫なのに盗まれたんですか?」
「連れ去られたんです」
「…すみません。では犯人は家の中に?」
「不注意で、彼女は外に出てしまったのです」
「…」
押し黙ってしまうカヤに代わり、マリオが質問をする
「それはどういった事故ですか?」
「…どういう意味です?」
薫の表情が変化する。何故かはわからないが、警戒しているようだ
「おっしゃってみてください」
「例えば、事件性、または人為的なものでは…」
「一切ありません」
「そうですか。失礼しました。探偵は全ての可能性を検討しなければいけないので」
「大変ですね」
お返しとばかりに、薫が皮肉を送る
「慣れれば、平気です」
マリオは微笑でそれに答えた。
お茶を一杯頂くと、その日はお開きとなった。
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