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いう♪
言うの部・1
言葉とは、口にしなければ伝わらないものである。
そんな当たり前のこともわからない人間が増えていることに、ミナは正直戸惑いを隠せていなかった。
言わないで伝える手段、『メール』『掲示板』『チャット』『手紙』『交換ノート』…etc.は、不完全なものなのだ。
例えば『バカ』という言葉。
これもシチュエーションが違えば、用法はかなり異なってくる。
クラスで、仲間とふざけあっている時の『バカ』は、本来の意味を持っていない。
恋人が、クリスマスの夜に遅刻して、しかし素敵なプレゼントを持ってきてくれたり、はたまたロマンティックな状況を作ったりした時に彼女が嗚咽まじりに言う『バカ』には、親愛の情が混じっている。
事故で、ず~っと眠っていた人が、突然奇跡の復活を遂げた時の第一声『おはよう』に対する『バカ』も、嬉しい気持ちが入っているだろう。
しかし、前述の口にしない伝え方でいくと、全ての状況で、相手をばかだと思っているということを伝える『馬鹿』になってしまう。
確かに、文を工夫すれば、少しは改善されるかもしれない。が、本質は変わらない。口に出すのが、一番大切なのだ。
ミナは寡黙な少女だった。それと言うのも『睡眠堕波』のせいで、いつでも眠りの淵にいるからである。
とてつもなく眠い時に話しかけられても、普通の人なら無下に対応してしまうだろう?
『睡眠堕波』で幼少時より経験を持つミナでさえ、最近ようやく上手く喋れるようになったのだから、会話を成立させるのは、普通の人にはほとんど不可能なのだ。
と、『睡眠堕波』をコテンパンに書き下しているが、どんなものにも短所があれば長所もある。
さて、それは何か。
ミナは大学生である。これがヒントだ。
とはいえ、答えは考える間もなくすぐにわかるものなので、問題編を長くする気はない。
ミナは何故大学に入れたのか。というより、どうやって学校の勉強をしてきたのか。この疑問点に行き着く事ができれば、答えは自ずと見えて来るだろう。
そう、『睡眠堕波』の長所は、俗に言う『睡眠学習』のそれと同じ、睡眠中の脳の活性化である。しかし脳の活性化率は、その比ではない。
その力を利用して、ミナは例えば教科書等を読んで、全て覚えてしまえるのだった。
それにより、彼女は『睡眠探偵』と呼ばれている
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