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…ここは、平和だな。
なんて場違いな考えなんだろう、とは、この時の花蓮には思えなかった。
幕末、動乱の最中。
平和なんて、どこを探したって見付かるはずがなかった。
ましてやここは新撰組。
攘夷を説く者たちと交戦の絶えぬ、血生臭い場所。
平和とは、相対する場所。
それでも、この時の花蓮にしてみたら、この場合は間違いなく平和だった。
いろんな人が生きて、いろんな思いが生きて…。
みんなが自分の思いを大切にしてる。
そして同じ思いを持つ仲間を、大切にしている。
大切にされるって不思議で…大切にしてもらえると、自分もその人を大切にしたいって思える。
思わず顔が綻ぶような、ちょっぴりくすぐったい…でもものすごくあったかい気持ちになれる。
それはスゴく嬉しくて…。
少し前の自分には持てなかった感情。
知らなかった感情。
あの時私は、なんて冷たい瞳をしていたんだろう…。
「おやぁ新八くん、何やらお顔が赤いようですが、どうしたんですかぁ?」
原田の言葉に、ふと我に返る花蓮。
「永倉さん、私にあんなこと言っておきながら、風邪ですか!?」
からかったはずの原田の言葉を完全に勘違いした花蓮に、原田・藤堂両名は大爆笑し、永倉は困惑する。
「ち、違う!…何でもないっ!」
そうとだけ言うと、永倉はスタスタと早足で花蓮の前から姿を消す。
原田と藤堂は、これはからかいがいがある、とでも言うように目を合わせ、永倉の後を追った。
「…なんなんですか、一体?」
残されてみれば、花蓮と沖田二人のみ。
まさに嵐のように唐突にやって来たかと思えば、同じように唐突にいなくなる三人に、花蓮は呆気にとられていた。
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