愛すべき日常

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土方のところに降るように仕事がやってくるのは、いつものことだった。 一組織の副長としてこの新撰組を取り仕切る男のもとであれば、それは必然なのかも知れない。 この人自体、なんだかんだと悪態をつきながらも実際面倒見のいい人で、新撰組のためならばとこの雑務の山を片付けている。 普段から見馴れている光景でもあったし、ある程度なら花蓮も干渉しなかった。 …ある程度ならば。 最近の土方の仕事の量は、端から見ても度を越えている。 それもそのはず、土方自身が言っているように、今新撰組は大切な時期を迎えているのだ。 “新撰組” 以前まで壬生浪士組と呼ばれていたこの小さな集団が、会津公からその名を賜ったのはほんの数ヵ月前のこと。 名を賜るということ。 それは会津公に、一組織として正式に認めて貰えたということに他ならなかった。 会津公はもともと、我が隊の局長・近藤勇には好意を抱いてくださっていた。 集まったばかりの組織という事もあり、当初不祥事が絶えなかったものだが、会津公は寛大に見守ってくださった。 しかし所詮こちらは田舎上がりの侍の集まり。 会津公のご厚意があっても、相応の身分を持たない浪士組に不審を持つ者も少なくなく、そういった反対を押し切って今回名を賜ったことは、組の者にとっては大きな進歩だった。 しかしそれは同時に、失態を犯せないということだった。 会津公が信頼して認めてくれた組織。 それが失態を犯せば、当然会津公の顔に泥を塗ることになる。 名を賜ったことにより何かと増えた雑務に加え、土方は体制だの管理だのと細かいところにまで目を光らせる必要があったのだ。 会津公に泥を塗るような行為は許さない。 “鬼の副長”は、そうやって生まれた。
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