愛すべき日常

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「じゃあ土方さん、こちらをお願いします。」 二つに分けた資料の山の片方を差し出して花蓮が言った。 「…そっちは?」 「副長に目を通す必要があるのはこっちのみです。こっちは土方さんでなくても充分対応できますから、私に任せてください。」 にっこり笑って、花蓮は片側の山を持ち上げる。 「…すまん。あんまり奴らには、世話かけたくねぇんだよ。そのために隊士たちのことは任せて俺は雑務をやってんだ。」 「わかってますよ、土方さんのそういう優しさ。でも私は隊士育成には関わってません。せっかく私がいるんですから、使ってください。」 一礼して、花蓮は土方の部屋を後にした。 花蓮の持って来たお茶を一口飲み、ふぅと大きく息をつく土方。 「土方さん、お邪魔していいですか?」 人懐っこい、明るい声が耳に飛び込んでくる。 よく知るその人物の声に、土方もふっと表情を和らげた。 「何だ、総司?」 襖をスッと開けて、青年が顔を出す。 伸ばされた長髪をゆったりと結び、微笑む姿は女性ともとれるほど中性的な顔つきをしている。 細身で華奢な身体つきもそこに拍車をかけている。 彼が沖田総司。 どこか掴みどころのない青年だ。 「あれ、随分と書類が減りましたね。朝来た時は机いっぱいだったのに。」 「あのなぁ、今は未の刻だぞ?お前俺が遊んでたと思ってるのか?」 土方にそう凄まれても微笑み続ける沖田に、土方はふっと冷笑を漏らす。 「…なんて、な。さっき花蓮が来たんだよ。俺の仕事を半分持って行きやがった。」 「そうだと思いました。」 土方は、相変わらず喰えない奴だなと沖田を見ながら机からキセルを取り出して火をつける。 「で、何か用事があるから来たんだろ?」 「はい。空いた部屋をどうするのか、聞こうと思って。」 沖田の言葉に、土方は思わずうっと息を詰まらせる。 それに気付かない沖田ではないとは思うが、土方は悟られないようゆっくり煙を吐いた。 「そうだな。芹沢、新見、平間、平山…。四人分の部屋は空いたわけだ。」
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