愛すべき日常

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「――っくしゅ、っくしゅん!」 なんの前触れもなく襲ってきたくしゃみを、花蓮は抵抗する間もなく吐き出した。 「風邪か?珍しいな。」 部屋で土方の書類を片付ける花蓮に声を掛けたのは、縁側に腰かけていた永倉だ。 永倉新八。 真っ直ぐな性格の上に剣の腕もたつ。 周りより少々小柄な体格ではあるが、彼はその弱点さえも有効に利用し、身軽で素早い剣技を得意とする。 「そんなことないですよ。大体たかがくしゃみ二回だけの風邪がどこに存在するんですか!」 間髪入れずに突っ込んできた永倉に、花蓮はむっと頬を膨らませて抗議する。 「じゃああれだ!噂されてんだ、お前。」 「…子供みたいなこと言わないでくださいよ。」 ふぅと息をつく花蓮に、永倉は自信ありげにビシッと人差し指を掲げた。 「知ってるか?くしゃみ二回は悪い噂だぞ。」 「ぬあっ!?」 思わず振り返った花蓮に、永倉は腹を抱えて笑い始める。 「何焦ってんだよ!こんなの子供だましだろ?」 「ひ…引っかけたんですかっ!?」 「俺をバカにした罰!」 永倉が勝ち誇ったようにそう言うと、花蓮はすかさず永倉の後ろを指差した。 「あっ、土方さん!!」 「ぅおっ!」 慌てて立ち上がり、振り返ってみれば当然その人の姿はそこにあるはずもなく。 花蓮の方を見れば、何事もなかったかのように資料を片付けている。 「騙したなぁ~っ!」 「これでオアイコですよ。」 満足そうに花蓮がそう言うと、不満気だった永倉もふっと表情を緩ませて再び縁側に腰を下ろした。 「…で、お前さっきから何やってるわけ?」 十個に分けられていく資料の山に目をやって、永倉が尋ねる。 「土方さんのお手伝いですよ。新撰組の、新しい組分けです。」
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