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火を付けようと胸ポケットを漁るが、どこにもそれらしきものは見つからなかった。
おぼろげな記憶を辿ってみると、千秋は愛用のジッポを部屋に置いてきたことに気がついた。
街中での喫煙を千秋は快く思わない。
以前までは携帯灰皿を持ち歩いていたが、それも億劫[オックウ]になり今現在では喫煙所以外の場所での喫煙は滅多にしなくなった。
ふと、厨房から一人の青年が千秋に近付いてくる……
背格好は自分と同じ位の180cm相当…
手入れを全くしていないボサボサの髪、
表情が隠れて見えない程に薄汚れたの黒縁眼鏡、
そして、ピンと背筋が伸びたその立ち姿……
その特徴を一言で言い表すとすれば【冴えない男】といったところだろうか。
特に気にする要素もない、……千秋は青年から目を離した。
「あの…、火が欲しいんですよね」
突然、青年は千秋に話し掛けてきた。
「………!」
その風貌からおおよそ予測もつかない程の声の調子に、千秋は思わず青年の方を振り返った。
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