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「あ、いいですよ。
せっかくだから僕が点けます……」
青年は申し出を断り、ライターを手に、千秋のタバコの先端へと手を伸ばした。
ここは室内……ライターの火が風で揺らめくことはない―――すぐに火が点き、青年の手が離れた。
(……綺麗な手だな)
その手をまじまじと見つめてみれば、手入れこそしてはいないものの、長くすらっとした指、爪の変形具合もなく、何よりもピアノを弾く少女のごとき美しいピンク色の爪……。
青年の手に気を取られていた千秋は、つい無意識の内に肺に入れた煙をすぐ目の前にいる青年に吹き掛けてしまった!
「……う…ごほっ、ごほ…っ!!」
青年が突然咳込んだのを見て、それが自分が吐き出したタバコの排気によるものだということに気付いた。
「……あ、ごめん君!
大丈夫かい?」
排気が目にも入ったのだろう……青年はゆっくりと掛けている黒縁眼鏡を外した。
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