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「―――!!!」
青年の素顔がその目に露[アラ]わになった瞬間、千秋は思わず腰を下ろしていたカウンター椅子からガタン、と立ち上がった。
その勢いに、椅子が派手な音を立てて床に転がった。
突然の大きな音に驚いた客の目線が一気に千秋の倒した椅子へと集まる。
だが、千秋は椅子を倒したことなど全く気付かなかった。
千秋の意識は今まさに眼鏡を外し、煙で滲みた瞳をこする青年の素顔にのみ向いていた。
「……今、派手な音がしましたね。何かあったんですか」
眼鏡を外した自分に見とれているなどと、夢にも思わない青年は目の前にいる千秋に尋ねた。
よほど視力が悪いのか……
青年の声も耳に入ってなどいなかった。
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