【ACT.3】素性

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あの夜から、千秋はあの時会った青年・吉崎駿一のことが忘れられなかった。 1週間経った今ですらそう思うのだから相当なものだと自分でも呆れていた。 あれからというもの、いつもと変わらずに毎日のように送られてくる大量の履歴書にも目を通さず、ごみ箱へと投げ捨てる。 提携プロダクションからの紹介だ、と言われオーディションを行っても、常に頭の中にはあの夜の繁華街のファミレスにいた青年のことばかりを考えるようになっていた。 確かに見かけは劣悪だった……だが、それよりもあの視線―――目に映る人並み以上の苦労を重ねてきただろう深い、深い瞳の奥に見え隠れする何か……その『何か』が気になっていた。 「千秋、お目当ての奴でも見つかったのか?」 事務所の椅子の背もたれにもたれ掛かりながら……隣から掛かる声に振り向いた。 「うーん…どうかね~」 確かに、頭から離れないその姿、その仕草…… だが、名前しか知らないあの青年を、たったそれだけの理由で据えてもいいものか―――…。
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