【ドラクエ売りの少女】

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【ドラクエ売りの少女】

あれはクリスマスのある晩。 その日は雪が降っていた。 俺がとある路地を歩いていると、かたわらに少女が立っていた。 彼女は「アンチFF」という看板を掲げ、道行く人に声をかけていた。 「ドラクエ5はいかがですか?お子様のクリスマスプレゼントに最適な、ドラクエ5はいかがですか?」 しかし誰も見向きはしない。 当然だ、FFの方が面白いのだから。 俺もFFファンだったので買わなかったが、しばらくその様子を見ていた。 「ドラクェ5は・・・ぃかがで・・・すか・・?」 彼女の声はだんだんか細くなっていく。 そのうち彼女は縮こまってしまった。 かじかむ寒さに耐えられなくなったのだろう。 彼女は何を思ったかカセットとカセットをぶつけだした。 すると火花が飛び散り始めた。 「これで・・・少しは暖かくなるよね・・・」 彼女の周りには幻覚でも見えているのだろうか。 なにやらひとりごとを言っている。 「あ、おいしそうなハンバーグ。こっちにはローストチキンだわ」 見ているだけでわかる。彼女はもう凍死寸前だ。 俺は彼女を抱きかかえ自分の家に連れて行った。 暖かいココアを出すと、彼女は次第に元気を取り戻した。 俺が「大丈夫かい?」とたずねると、 彼女は髪をかきあげこう言った。 「あら素敵なお兄さん、パフパフしない?」
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