午前8時 沖縄方面

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気配のする方を見れば、そこには小隊最年少にして小隊二人目の女性自衛官、そして最も自分との付き合いが長い 「……おはよう」 そこに居たのは、トレイに積まれた食事に手を付けずに、ただこちらを眠そうな半目でジーッと見据えている。待てと言われた子犬のような印象を持たせられる小柄な少女、浅野 心視だった 「おはよう、心視」 「うん……いただきます」 そう僕が挨拶を返すと、トレードマークとも言える綺麗な金髪ツインテールを揺らしながら朝食を平らげ始める 昔から、自分との朝の挨拶を済ませてからでないと、朝食を食べない決まりなのだという(不在のときはどうするのかと聞いたら、例外もあるらしい) 「もぐもぐ……」 こうして無言で、しかし高速で大盛りの朝食――食堂の連中はこいつに非常に甘い――を食べている姿を見ると、寝坊した自分自身への罪悪感が積もってしまう (次はちゃんと早く起きよう……) 心視は我慢できると言うが、外野が怖い。特に、中年管理職組の過保護具合は殺人レベルである。それはすなわち、罪悪感を感じる隙さえ与えられないレベルなのだ 「……ごちそうさま」 ――難だが、こいつは早食いが過ぎると毎回思う。三人前をぺろりと食べ切るこいつは成長期真っ盛りにしても健康に悪い 「心視、遅れた僕が言うのもアレだけど、もう少しゆっくり食べような」 「……うん」 「もう寝坊しないから、二人でゆっくり食べような」 「……うん」 「……ところで僕の分の朝食が消えてるんだけど、その膨れた頬と何か関係ある?」 「……」フルフル 結局、この訓練キャンプ最後の食事で有り付けたのは、耳無しのパン半分だけであった もう、寝坊はしないと心に決めた朝であった
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