55人が本棚に入れています
本棚に追加
「ん?」
彼は怪訝そうに振り向いた
「あ……」
傷ついていてもわかる際立った顔、女子のような透き通った肌、私を映している吸い込まれそうなほど黒い目
もしも一目惚れの具体例を挙げろと言われたら、私は間違いなくこの一瞬と答えるだろう。絶対そう答える
「……なんだ? やっぱどこか怪我したのか?」
「ひゃうっ」
声を掛けられ、彼を見入ってしまった自分に気付き顔が熱くなる
そ、そうだ。私は神楽坂家の次期党首、神楽坂 森羅、助けられたとは言えこんな庶民に一目惚れなんて――
「え……いぁ、その……だな。うん、助けてくれて有り難う。では私はこれで――」
「引き止めておいて帰るっておいおい……それに顔が真赤だぜ? どこか痛いのか?」
どれどれ、おじちゃんに見せてみい と意味不明な事を呟きながら――あろうことか、私の顔を超至近距離で除き込んできた
しょ、庶民のくせにッッ
「っ!」
無礼者! と反射的に叫ぼうとしたが、小学生にしては不可解なほど小綺麗な顔と、心の底から心配そうな表情に言葉が詰まった
そして
「本当に大丈夫か? ……ま、これからまた何かされたら言えよな――お前一人くらいなら俺が守ってやるからよ!」
この時、間違いなく自分が初めての恋に落ちる音がした
最初のコメントを投稿しよう!