午後8時 第2東京方面

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「ん?」 彼は怪訝そうに振り向いた 「あ……」 傷ついていてもわかる際立った顔、女子のような透き通った肌、私を映している吸い込まれそうなほど黒い目 もしも一目惚れの具体例を挙げろと言われたら、私は間違いなくこの一瞬と答えるだろう。絶対そう答える 「……なんだ? やっぱどこか怪我したのか?」 「ひゃうっ」 声を掛けられ、彼を見入ってしまった自分に気付き顔が熱くなる そ、そうだ。私は神楽坂家の次期党首、神楽坂 森羅、助けられたとは言えこんな庶民に一目惚れなんて―― 「え……いぁ、その……だな。うん、助けてくれて有り難う。では私はこれで――」 「引き止めておいて帰るっておいおい……それに顔が真赤だぜ? どこか痛いのか?」 どれどれ、おじちゃんに見せてみい と意味不明な事を呟きながら――あろうことか、私の顔を超至近距離で除き込んできた しょ、庶民のくせにッッ 「っ!」 無礼者! と反射的に叫ぼうとしたが、小学生にしては不可解なほど小綺麗な顔と、心の底から心配そうな表情に言葉が詰まった そして 「本当に大丈夫か? ……ま、これからまた何かされたら言えよな――お前一人くらいなら俺が守ってやるからよ!」 この時、間違いなく自分が初めての恋に落ちる音がした
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