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愛情は、甘く切なく
時に、究極の
殺意に似ている。
「ねぇ、秋兎」
「……ん?」
「殺してもいい?」
「……いいぜ。俺を殺すのが捺姫なら」
名を呼ばれ振り向いた秋兎は自身の恋人である捺姫に、とんでもない言葉を吐かれる。
が、秋兎は一切表情を変えずに、そう言葉を返す。
「じゃあ……死んで?」
「ぐ……っ、あ」
秋兎の言葉を聞くなり間を入れず馬乗りになり首を締め始める捺姫。
ただ苦しみに歪む声を聞きながら捺姫は無表情に秋兎を見つめ首を締め続ける。
「捺姫……愛してる」
いつものようにフッと笑って抵抗せず捺姫への愛の言葉を紡ぐ秋兎に捺姫は動じもしない。
透き通るように月の灯りに反射する銀糸の髪が捺姫の視界に眩しいくらいに映っている。
迷いなく真っすぐでいて、どこか憂いを秘めた瞳も苦しげでいて穏やかな秋兎の声も捺姫にとっては今の行動を止めるより、自らの衝動を掻き立て加速させる要因となるだけだった。
ああ、こんな事をしたい訳じゃない。
そう捺姫は思う。
少し、また少しと自身の手に力を加えていき秋兎の首を絞めながらも、どうして自分は、こんな事をしているのかと捺姫は、ふと考える。
「ねぇ……秋兎、おかしいよね……私はただ……」
愛しくて、
愛しくて、
仕方がないだけなのに。
今、正にその愛しい人を殺そうとしている。
「ねぇ、秋兎……私は狂ってるのかなぁ?」
愛情と殺意。
なんて矛盾した思い。
端から見たら、おかしくて、どう考えても狂っているとしか見られない捺姫の行動。
だが、それでも。
「そんな、事……ねぇ…よ」
首を絞められて幾数秒。
意識が朦朧としてくる中、捺姫の頬へと手を伸ばし秋兎はそう答える。
「ねぇ、秋兎。どうしたら貴方は私のものになるの?」
貴方を殺したら、
血を飲み干したら、
目を刳り貫いたら、
心臓を手にしたら。
貴方ハ私ノモノニナル?
残忍でいて狂気に満ちた捺姫の言葉が降り落ちるも秋兎は笑って言う。
「捺姫……愛し、てる……俺、は……捺姫の、モ……ノ…」
だから、泣くなと秋兎は切なげに言う。
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