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「ごめん、栞」
「離して」
零に抱きしめられたけど、あたしはそれを拒否した。
だけど零はもっと強い力であたしを抱きしめた。
「やだよ零、離して」
「離さない。栞がちゃんと話を聞いてくれるまで離さない」
「…他に何を話すの?聞きたくないよ」
あたしは零の腕の中で脱力した。
これ以上話を聞きたくなかった。
だけど、聞かないと何も解決しない。
「まず、いずみさんを好きだったのは昔であって、今は栞以外なんて考えられないから」
あたしは頷いた。
「で、いずみさんのこと抱きしめたのは…悪かったと思ってる。本当にごめん。慰めてただけで、そこに特別な感情は少しもないよ」
零の口が止まった。
次の言葉を考えているようだった。
「昔の話、していい?栞がイヤなら話さないよ」
「…大丈夫。話して」
零の体に顔を埋めながら言った。
「初めていずみさんと会ったのは、もう10年くらい前になるのかな。兄貴が連れて来た友達の中にいずみさんがいたんだ」
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