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「あ、これです」 あたしはかばんの中から本を取り出した。 他に何もなかったからだ。 「これをわざわざ…」 眞鍋さんは受け取った本を見つめながらつぶやいた。 「はい。ところで、いずみさんは今どこに?」 「知人のところに…」 嘘だと思った。 玄関の中をちらっと見たとき、いずみさんがはいていた靴があった。 それに、顔にあんなひどいアザがあるのに出掛けられるわけがない。 「…眞鍋さん。いずみさんいるんでしょう?」 「なにを…」 眞鍋さんは少しうろたえた。 その顔を見る。 こんな男が好きだったんだと思うと、自分自身に寒気がした。 その時だった。 部屋の奥から物音がした。 「いずみさん!」 あたしは部屋に入った。 無我夢中で。 リビングに入ると、奥の部屋からいずみさんの声がした。 「いずみさん!」 ドアには鍵がかかっていた。 あたしがそれを開けようとしたときだった。 「勝手なことをするな」 あたしの腕は眞鍋さんに掴まれていた。 .
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