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それから特に会話もなく、ずっとイスに座ったまま零の手術が終わるのを待った。
時折、お兄さんが深く息を吐くのが気になった。
「そういえば、俺が言うのはおかしいかもしれないけど…いずみのこと、世話になったね」
「あ…いえ。今はゆっくり暮らしてるみたいで…よかったです。お兄さんはあれからいずみさんに会っているんですか?」
「たまにね。あっちの親はおもしろくないかもしれないけど」
そう言ってお兄さんは鼻で笑った。
ちょうどその時、手術中のランプが消えた。
それに気付いたあたし達は、勢いよく立ち上がった。
扉が開き、執刀医と思われる人が出て来た。
「ご家族の方は」
「はい。栞ちゃんは零についててあげて」
零は眠っていた。
術後だから当然だけど。
あたしは零の手を握った。
暖かい。
ちゃんと生きてるってことを実感した。
「栞ちゃん」
お兄さんが病室に入って来た。
表情がさっきよりも穏やかになっていた。
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