32359人が本棚に入れています
本棚に追加
/263ページ
「栞…」
廊下に涙が落ちた。
「こんなの…やだぁ」
蓋を開けたように涙は流れた。
さっきまで嬉し涙が流れていたはずなのに。
亜希はなにも言わずにあたしを抱きしめた。
余計に涙が出た。
あれ以上病院にいることが出来なかったあたしは、先にうちへと帰って来た。
帰ってすぐにお兄さんから連絡が来た。
零の記憶がなくなったのは一時的なものだと言っていた。
ただ一時的といっても、それがいつ戻るかはわからない。
零があたしを思い出すのは明日、一年後、もしくは一生思い出さないかもしれない。
そんな現実を突き付けられ、あたしはどう零に接すればいいかわからなくなった。
零の目が覚めたことを素直に喜べない自分に嫌気がさした。
どうしてあたしだけなんだろう。
どうしてあたしだけを忘れてしまったんだろう。
いつ思い出してくれるの?
あたしの頭の中はそればかりだった。
結局この日は眠れずに、あたしは朝を迎えてしまった。
.
最初のコメントを投稿しよう!