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「栞…」 廊下に涙が落ちた。 「こんなの…やだぁ」 蓋を開けたように涙は流れた。 さっきまで嬉し涙が流れていたはずなのに。 亜希はなにも言わずにあたしを抱きしめた。 余計に涙が出た。 あれ以上病院にいることが出来なかったあたしは、先にうちへと帰って来た。 帰ってすぐにお兄さんから連絡が来た。 零の記憶がなくなったのは一時的なものだと言っていた。 ただ一時的といっても、それがいつ戻るかはわからない。 零があたしを思い出すのは明日、一年後、もしくは一生思い出さないかもしれない。 そんな現実を突き付けられ、あたしはどう零に接すればいいかわからなくなった。 零の目が覚めたことを素直に喜べない自分に嫌気がさした。 どうしてあたしだけなんだろう。 どうしてあたしだけを忘れてしまったんだろう。 いつ思い出してくれるの? あたしの頭の中はそればかりだった。 結局この日は眠れずに、あたしは朝を迎えてしまった。 .
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