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この日、あたしは零のところに行こうか迷っていた。
思い出してくれてたらいいけど、そうじゃなかったら辛いだけだから。
だけど思い出してもらうには会ったほうがいいのかもと思い、あたしは結局行くことにした。
病室のドアを開けると、零は起きていて本を読んでいた。
ふと目が合った。
「…」
あたしは何も言わず、ベッドの傍にあるイスに座った。
「まだ…わかんない?」
あたしがそう聞くと、零は困った顔をした。
「…うん、ごめん。昨日も失礼なこと言ってごめん。大事な彼女に向かって…」
「彼女って…お兄さんか純也が言ってたの?」
「兄貴に。すげー怒られた。…本当に傷つけてごめん。でも、思い出せないんだ、どうしても」
覚悟をしててもやっぱりショックだった。
彼女だって聞いても、あたしを見る零の目は昨日のままだ。
今のあたしは零にとっては他人なんだ。
零の前なのに、あたしはどうしようもなくなって泣いた。
零はまた困った様子だった。
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