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「司が凛ちゃんとケンカしたときも泣きつかれたなー…懐かしい」
上総がそんなことを言うから、あたしは上総の胸の中で軽く吹き出した。
「司が泣きついたの?」
「そうだよ。居酒屋のカウンターでね。他の客が引いてたな…」
想像するとかなり笑える。
あたしはこらえきれずに笑った。
そのときだった。
「何やってんの?」
あたしは慌てて上総から離れた。
「なんでもないよ。栞を送っただけ。じゃあな、お疲れ様」
上総は何事もなかったかのように言った。
落ち着きすぎている。
「あ、ありがとう」
片手を上げ、上総は来た道を戻っていった。
角を曲がったのを確認すると、あたしは零のほうを見た。
「…零、どうしたの?」
「遅かったから…」
零はそういうと、あたしの腕を引っ張ってマンションの中に入った。
それからずっと、エレベーターに乗ってからも零は無言だった。
「零…怒ってるの?」
「なんで?」
「なんでって…」
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