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「あれ…」
いつの間にか涙が出ていた。
「まだ…帰ってこないって決めてないのにな」
玄関で買ったばかりのブーツをはく。
これをはいて零とどこかに出掛けることもなかったな、なんて思った。
そしてあたしは立ち上がった。
その時だった。
バンッと勢いよく玄関のドアが開いた。
「キャッ…」
これから自分が開けようとしていたドアが開いたものだから、あたしはかなり驚いた。
そしてもう一つ驚いたこと。
それは、あたしの目の前に息を切らした零が立っていたことだった。
「零…」
「どういうこと?」
零はあたしの目を見てそう聞いた。
「どういうことって?」
「しばらく休むって…。それに、その荷物…」
あたしのそばには大きなスーツケースがあった。
零はそれにすぐ気付いたみたいだ。
「…そのままだよ。ちょっと考えたいことがあって、だからしばらくここを離れるの」
あたしがそう言うと、零は思い切り壁を叩いた。
当然あたしはそれに驚く。
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