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「言いたいこと言わないのはどっちだよ」
零はそう言った。
あたしが前に言った言葉だった。
「俺には言えないの?」
そんなことを言われると思っていなかったあたしは、黙り込むしかなかった。
「俺にとってそれが、プレッシャーになったり傷ついたりすることだから?」
「え…」
「悩んでるのも、隠れて泣いてるのも全部知ってた。でも、いつか思ってることを話してくれるって…俺はそう思ってた」
「だって…」
あたしが喋ろうとすると、零はそれを阻止するかのように自分の腕の中に引き寄せた。
久しぶりの感触だった。
「そもそも、俺が悪いんだよな。いろんなこと甘えすぎてた」
「そんなことない…零は悪くないよ…」
あたしは顔を埋めたまま泣いていた。
「…ちゃんと話そう。お互いの気持ち。だから…ここを離れるかどうかを決めるのは、それからにしてほしい」
「…わかった」
零はそう言って仕事に戻った。
そんなところが零らしいと、少し顔が緩んだ自分がいた。
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