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イブリース・マーリド大陸、辺境の街ロノウェ。
水脈が枯れ見捨てられたその街に、珍しいことに旅人が訪れていた。
二人組の旅人である。
「鬱陶しいな、おい」
そこら中から突き刺さる悪意の視線。
職を失った者が多いのか、路地裏から様子をうかがっている姿がちらほらと見える。
あまりの露骨さに旅人の片方がガンを飛ばしまくれば、その鋭い双眸に周囲から視線の気配は霧散していった。
「辛気くせえ街。ふらふらしてたら襲われっかもな、特にルキみたいのは」
あたりを睨みつけていた旅人、背が高く、目つきの鋭い男が愉快そうに笑った。
橙の長髪に翡翠の瞳、肌は素なのか日焼けなのか褐色だ。
そう言って彼が隣を見れば、もう一人の旅人、ルキはなんともすました顔をしている。
しかし可愛らしいその顔に一瞬浮かんだ苛立ちを彼は見逃さない。
空色の髪が乾いた風にサラサラと流れていた。
「そんなことないですよ。メフィストが盾になってくれれば問題ありませんから」
ルキはにっこり笑ってメフィストを見上げた。
その大きな紫暗の瞳に彼は呻く。
言ってることはえげつないのに、ルキが言うとまともに聞こえてしまうのが謎だ。
「盾かよ……酷い言いようだなそりゃ。てかそうやって呼ぶなよな! 俺がその名前どんだけ嫌ってるか知ってるだろ」
「だってあなた丈夫ですし。名前の方は……忘れてたってことにしてください、メフィ」
明らかにわざとだろうに。
にこやかに言うルキにメフィストは言葉も出ない。ため息一つ、とぼとぼと歩みを進めた。
やる気が出ないとばかりに彼の歩調はひたすら鈍く、比べてルキは軽い足取りでさっさと行ってしまう。
二人が向かう先はこの街を管理している機関、パス・ロノウェ支局。
そこからの依頼で彼らはここまで来ていたのだ。
世界政府カバラ、その下にはセフィラーと呼ばれる国の統治機関があり、さらにその下の街をおさめる機関がパスである。
しばらく歩けばかなり古びた門が見えてきた。
持っている地図と見比べると、どうやらそこがパスの入口のようだ。
「ここですね。メフィ! 遅いですよッ」
「誰のせいだよ、誰の」
「さあ? 誰でしょうね」
微笑混じりにあっけらかんと言い放つルキに背を押され、渋々とメフィストは門を潜る。
二人を迎え入れたのは、古びた外観に似合わぬ平凡な初老の男性だった。
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