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応接室に通された二人の前に紅茶が置かれる。
ふわりと漂う暖かな香りにルキは喜んで飲んでいたが、メフィストは見向きもしなかった。
「こんな辺境まで足を運んでいただきなんとお礼を言っていいのやら」
「だったら最初から言うッ……!」
行路を思い出し文句を言い始めるメフィストの足を、テーブルの下でこっそり踏んづける小さな足。
誰の足かは言うまでもないだろう。
「そういえば自己紹介がまだでしたね。
僕はルキ。ルキ=ストラス。で、こっちは……」
「メフィスト=フォカロール」
「メフィスト?」
その名前を男は繰り返し、彼を見る。
明らかな畏怖が混じった視線を遮ったのはルキだった。
「彼は悪魔じゃないですよ。名前が同じだけです」
「あ、も……申し訳ない! えー、私の紹介がまだでしたね。
私はバルドー=ライアックス。ここのパスの責任者です」
バルドーはそのやや薄い頭を下げるが、メフィストは彼から顔を背けていた。
「ではバルドーさん。依頼の件ですが……」
そんな場の雰囲気など気にもせず、ルキが話を切り出す。
その時だ。
彼らのいる応接室の窓ガラスが割れたのは。
降り注ぐガラス片から、迷わずメフィストはルキを庇う。
「メフィッ!」
「大したことねえよ。そっちのおっさんは?」
言われて見れば慌てて窓に駆け寄るバルドーの姿。
「キアっ!」
彼は窓枠を握りしめ叫ぶが、返事はない。
メフィストはガラスを払って彼に歩み寄り、その胸ぐらを掴んで壁に押しつけた。
古びた建物が衝撃に軋む。
「どういうことだよ。これは」
「す、すいません! 多分あなたたちを奴らの仲間だと思って」
怯えながらもなんとかそう言うバルドー。
ただでさえ人相の悪いメフィストがさらに凄みを増して詰め寄っているのだ。彼が怯えるのも当然だろう。
ストッパーであるルキが止めないのを良いことに、メフィストの追求は続いた。
奴ら。
その単語にルキは眉をひそめるしかない。
割れた窓ガラスを見つめてため息を一つ。
「なんだか面倒なことになりそうですね」
バルドーの悲鳴とメフィストの怒声をBGMに、ルキは再び軽くため息をついたのだった。
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