始まりの街・ロノウェ

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「メフィ。そのあたりでやめてください」  いまだ詰め寄るメフィストを遮り、ルキが言う。  バルドーは乱れた服を整えて座り込んだ。 「教えてくださいバルドーさん。奴らとはなんですか?」 「それは……」  口ごもるバルドーにルキは微笑む。その顔のままでメフィストを指した。 「言ってくれなきゃメフィをけしかけますよ」  にこりと笑う顔は優しさに満ちているというのに、言っていることは逆だ。  バルドーはだらだらと嫌な汗を流していた。 「それだけは勘弁を。何から話せばいいのやら……」  ハンカチで額を拭いつつ、バルドーはガラス片を拾い集める。  割れたガラスに映るその顔は苦しげに歪んでいた。 「水脈が枯れてから、この通り街は荒れ果てました。なにしろ生活水さえ満足にならないこともあります」  腕を組んで佇んでいたメフィストはチラッと机に目をやる。  そういえば確かに紅茶は自分たちにしかない。 「大きな水脈は枯れたと聞いていますが、小さな水源があると……」 「その水源を管理しているのが奴らです。元守護者でした」 「ガーディがですか。なるほど」  ガーディとは依頼を受けた街や国、個人などを守護する者たちを指す。  そんな者たちが徒党を組み、水源を占領しているというのか。 「奴らは我々に水売りつけて来ます。それも法外な値段で!」 「法外だっつーなら潰しゃあいいだろ」  突然のメフィストの声にバルドーは身をすくませる。  彼は怯えを隠さずメフィストを見やり、静かに首を振った。 「私たちだってそうしようと思いました。ですが結果は……」  消え入りそうな声が虚しく余韻を滲ませ響く。 「だから僕たちに依頼を? よく依頼できましたね。裏切り者と同じガーディなのに」 「あなたたちのことは首都に住む友人から聞きました。何者にも屈さない、凄腕のガーディだと!」  まくしたててくる彼から目を逸らし、ルキはメフィストを見る。  彼は気だるそうな顔をしながらも頷いた。 「わかりました。その依頼お受けします」 「本当ですか! でもルキさんのような女性の方が行くには険しい道のりになるかと……」  目を輝かせたバルドーは、ルキを見て声を落とす。  後ろで吹き出すメフィストの奇声が聞こえた。 「誰が女ですって?」  ルキの顔に浮かぶ笑み。  しかしその紫暗の瞳はまったく笑っていなかった。
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