さて、潰しましょうか

2/6

403人が本棚に入れています
本棚に追加
/169ページ
「あーッ手間取らせやがってーッ」 「そう怒らないでくださいよ。一応パスからの依頼ですし」  一応のあたりを強く言うのは、ルキなりの怒りの表れか。  水源への山道を登る二人。  メフィストの口からは始終愚痴が漏れていた。  剥き出しの地面に枯れ落ちた梢が散らばり、障害物として彼らの行く手をことごとく阻む。  その上、道も急勾配だから当然体力的にも厳しいものがあるわけだ。  メフィストはともかく、既にルキは頬に汗を流していた。 「ところでよ、このちっこい足跡ってなんだと思う?」   言って不意に彼は足を止める。  指すのは彼らより一回りほど小さな靴の跡。普通にみたら、子供が通ったように見えた。  しかしここは子供のいるべき場所じゃない。 「おかしいですね、こっちは立ち入り禁止で……」  つかの間の休息に汗を拭い、思い出すかのように口を閉ざしてルキは立ち止まる。  バルドーとの会話を思い出していたのだ。 「キアさんですかね?」 「さっき石ぶん投げてきたガキか? 根性いれてんなー」  嘲り混じりの口調。  とりあわずにルキは歩き出した。疲れに鞭打つ速さでだ。  肩をすくめてメフィストもその後を追うが、歩幅と体力のせいですぐにルキは追い抜かされてしまう。  喉で笑う彼をルキは睨みつけた。 「小せえなぁ、ルキ」 「し、仕方ないんです! これから僕だってメフィくらいにッ」 「無理だな。おまえじゃ」  強く言われて返す言葉はない。  ルキはふてくされて顔を背けた。  そのままその小さな手を握りしめ、必死で山道を駆け上がる。  頼りなくすら見える小さな背をメフィストは後ろから眺めていた。 「ガキ一匹助けるために急いでんの? いつも死のうが生きようが個人の勝手って言ってんのに」  荒い息を吐くルキに悠々と追いつき、小さな身体を担ぎ上げて、メフィストは笑う。  ルキはひたすらムッとした顔で、彼を見ようとすらしない。 「子供は別です。まだ……あらゆる面で未成熟なんですから」  善も悪も。  命という意味も。  言葉すらも。  まだ、充分に知らないのだから。 「精神面で言ったらメフィだって子供ですし」 「……落とすぜ本気で」  メフィストが顔をひきつらせていることなどかまわずに、ルキは黙る。  時折吹き抜ける風が、火照った顔を冷やしていった。
/169ページ

最初のコメントを投稿しよう!

403人が本棚に入れています
本棚に追加