さて、潰しましょうか

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 ロノウェで大きな水脈が枯れてから。  ガーディが裏切ってから。  ある一人の少年の人生は歪められた。  バルドーの話によればキアの両親は、元ガーディに反感を抱き、戦いにいったそうだ。  そしてそれから、帰って来なかった。  誰一人として帰って来なかった。  それから少年は悪事に手を染める。  汚れていても、虐げられていても、生き延びるために。  少年の足跡を追いかけるメフィストに担がれたままのルキ。  小さくため息をこぼしていた。 「幸せが逃げるぜー」 「メフィ……そんなの本当なわけないでしょう?」 「知らねえけどな。人の耳もとで、はぁー、ばっかり言うなよ。気が抜ける」 「文句があるなら降りますよ。今すぐにでも」 「ここを自分で登れんのか? ルキちゃんよ」 「ちゃんって……!」  不快な呼び名に眉をひそめ、ルキは辺りを見回す。  傾斜何度かは知らないが、足を滑らせたが最後、下まで落ちるしかないような急斜面がそこにはあった。 「……這ってでも登りますよ」 「キアってーのも、そうやって登ったんだろうな。大した復讐心だぜ」  メフィストはルキを担いだまま、急斜面に足をかける。  大した苦労も感じさせぬままに歩いている姿は、彼の強靭さを垣間見せる。  ルキとてメフィストに比べれば確かに小さい。  それでも身長だって百六十はあるし体重も並みにある。  筋肉バカ、と呟くルキにメフィストは渇いた笑いを漏らした。 「復讐もバカですね……」 「人それぞれだろ。それは」 「復讐なんてのにかけるほど、命は安くないですよ。たとえ……どんなに憎い仇があってもね」 「それをわざわざ教えにいくのか? 優しいねえ、おまえは」 「優しくなんてありません」  ルキはうっすらと笑みを浮かべる。 「僕は自分が正しいと思ったことしかしていないんですから」 「それ、優しいって言わねえか」  呆れたようにメフィストが言うが、ルキは笑い返すだけだった。
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