二、いない

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  「そろそろ」   ぼそり。   「うん?」   みしろは絵筆を弄ぶ手を止めず、また、倉本の方を見もせずに相槌を打った。   「そろそろ、川瀬教員が来る頃だ」   みしろは画布を適当になぞりながら、顔を上げて壁掛け時計を見た。 ――十一時二十七分。     がらっと、勢いよく扉が開けられた。     「やぁやぁ! おはようお二人さん。……おや。もうこんにちはかなっ!」   無意味に大きな声が、小さな美術室に響く。 標準的な日本人の背丈に、ぼさぼさ頭。 痩せた肩に大きなボストンバックを抱えている。         ――あぁ、煩い。  
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