二、いない

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  ひらひらと、結んだ制服の左袖が揺れる。       篠原みしろには、左腕が“無い”。       生まれつきではない。   ある時期迄は在った。 ある時期から、無くなった。   それだけの事だ。   みしろは絵筆を弄びながら、真っ白い画布(キャンバス)の前に座った。     美少年――倉本とみしろは、美術部の元部員だ。 しかし、みしろは一度も作品を創った事がない。   乾いた絵筆で画布をがさがさとなぞる。   そもそも油絵(え)の才能など、みしろには無いのだ。 油絵に限らずどんな美の才能も。     みしろには無い。  
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