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一言で言えば、でかい。それもかなり。
「こりゃあ……アパート一室は入るな」
そのぐらい大きかった。
「さって、運ぶか」
とりあえずそれはどうでも良かった博人は、家に残りを取りに戻って行った。
「じゃあな、神崎」
「向こうでも元気にやれよ」
「また電話でエッチな事しようぜ」
「いや、しねえ」
荷物を完全に運び終わり、車に乗り込もうとしていたところで級友たちが最後の別れを告げにやって来た。皆、それぞれ手にお別れの品を持っている。全て受け取ったが、
(これらはどうしよう)
片付け場所に困っていた。
と、そこに、
「おい、神崎」
一人の男が現れた。級友たちを押し退け、今にも博人に掴みかかりそうな勢いで。
「……なんだよ」
その顔に覚えのある博人はしかし、素っ気ない。出来れば二度と会話したくなかった相手だからだ。
「お前、また楽しく剣道をやる気だろ」
その言い草が気に入らない。まるで二度とやるなと遠回しに言われているかのようだ。
「……やらねえよ。転校先でも剣道部には入る気すらねえ」
睨みながら言った。その明らかに変わった博人の雰囲気に、級友たちは少し違和感を覚えた。
「本当だろうな?俺らがいないからって、こそこそやったりしねえよな?」
またも腹の立つ言い方。博人は一層強く睨みながら、
「しねえっつってんだろ。少しは信じろ」
と、硬く握り拳を作りながら言った。
「……ならいい」
男は博人に背を向けた。ようやく帰ってくれるのか、と博人が安堵した時、ぴたりと足を止め、顔だけでこちらを向き、
「ただ、これだけは言っとくぞ。俺らはまだ、平野先生の事を忘れてねえ。全部、お前のせいだからな」
語気を荒くして吐き捨て、去って行った。
(嫌な事を思い出させてくれやがって……)
博人はその背中を睨みながら、男を恨んだ。と同時に、級友たちの間に重苦しい空気が流れている事に気付き、しばらく弁解の言葉を考えさせられた。
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