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「寝顔が可愛いと言われても、正直嬉しくない」
「なによぅ。可愛いのは良い事よ?」
塔子が頬を膨らませて言ってきたが、
「知らん」
と、博人は素っ気なく返した。
博人にしてみれば、可愛いと言われても喜べない。むしろ恥ずかしい。そういう年頃なのだ。可愛いよりは格好いいと言われたい。博人は常々そう思っている。
「ああ、そうそう」
突然、塔子が手を叩いた。
「もう一つ頼みたいんだけど、いいかな?」
「ああ。出来ることならな」
「良かった。ヒロくんならそう言ってくれると思ったよ。それじゃあちょっと待ってて」
そう言って塔子は奥に消え、程なくして戻ってきた。その手には、なにかの包みが大量にある。
「ご近所付き合いはしっかりしないといけないからね。これを配るのよ」
よいしょ、と塔子は博人の前にそれを置く。そのあまりの多さに、最初からやる気が失せてしまう。
「さ、手分けして配ろうね」
にこやかに塔子は言った。
「わぁったよ……」
特に逆らう理由もない。博人は渋りながらも了解した。
「次は……三滝さん、か?」
何件か配り終えた博人は、次の家に向かった。住み慣れていない土地の為、多少時間はかかっている。それでもどこか懐かしい空気がする事も感じ取っていた。
配る家はリストアップしてある。その内、三分の一は終わっている。もう少しだ、と博人は自分を励ました。
「ここか?」
何度も住所のリストと地図を見比べて確認する。間違いない。
「にしても……豪邸だねぇ」
博人はその家――三滝家を眺めながらそんな事を言った。事実、その家は豪邸と言えるほど大きかった。家の周囲をぐるっと囲む塀は高く、向こうの様子は伺えない。その塀を越えてさらに高い建物が見える。敷地面積も半端ではない。土地の広さが窺えた。
「ま、行くか」
そんな豪邸でもお構いなしに博人はチャイムに向かった。
「…………」
キーンコーン。
チャイムの音を聞いて、豪邸にぴったりな音だ、と密かに博人は思った。
「……出ねえ」
しかし、しばらく待ってみても、誰も出てこない。
(こりゃあ、留守か?)
それでも諦め切れず、博人は家の周りを回ってみた。窓でもないものかと探す為だ。
「……おっ」
そうしていると、窓らしきものを見つけた。そこに博人が行くと、
着替え中の女の子が。
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