とそあど

11/36
前へ
/138ページ
次へ
「なっ……!」 そこにいた少女は、ちょうどセーターを脱いでいるところだった。すぐに博人に気付き、それを着直す。 「きゃあああああああああああ!!」 着直したら、急に悲鳴をあげた。 「やっべえ!」 それを聞いた博人は即座に逃げの姿勢をとった。下手に逃げれば警察行きだ。だが、身体が勝手に動いてしまう。 「美香!痴漢!痴漢がいるよ!捕まえて!」 尚も少女は叫んでいる。痴漢かよ、と博人は後ろを振り向きながら疾走するが、すぐに前を向いた。いくら広い家とは言え、走り続ければいつかは壁にたどり着く。前を向かねば危ないのだ。 と、その瞬間、 「はいは~い。ここまでね」 そんなハスキーな声が聞こえた後、頭に衝撃が走った。そして博人は、静かに意識を失った。 声が聞こえる。 「だから、警察に連れてった方がいいよ!」 これはさっきも聞いたばかりの声。あの悲鳴の声だ。 「本当に覗かれたの?お姉ちゃんは自意識過剰なとこがあるから、今回も」 別の声。ハスキーボイスだ。 「違う!確かに覗かれたの!」 またさっきの悲鳴声の主。 「まあまあ、莉緒も落ち着いて」 また別の声。今度は聞いた事のない声だ。 博人はゆっくりと瞼を開いた。少しずつ見えてくる景色に、ここは室内であると悟る。えらく豪華そうな絨毯が見えた。そして、腕の感触から、 自分が縛られている事に気付いた。 「……捕縛?」 ぼそりと呟きながら、博人は顔を上げた。 「おや、目覚めたみたいだね」 ハスキーボイスがこちらを覗き込んでくる。黒髪を肩まで伸ばし、その表情はどこか暗い。 (せっかくの美人顔が台なしだ) およそこの場合に不適切な考えで、博人は少女を見た。 「さっきはごめんね?いきなり殴って気絶させちゃって」 なるほど、と博人は納得した。つまり殴られて気絶して縛られてるんだな、と。 (覗いちゃったから殴られたんだろうが……何故縛る?) 当然の疑問は口に出さない。いや、出す暇もない。 「ちょっとあんた!自分がなにしたか分かってんの!?」 悲鳴声の少女が博人を指差してそんな事を言ってきたからだ。 (なにしたか……って、覗きだよな) 己の罪を確認しつつ、改めて悲鳴声の少女を見てみる。青みがかった黒髪をハスキーボイスの少女よりも長く伸ばし、端整な顔立ちは怒りに満ちている。
/138ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加