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「なっ……!」
そこにいた少女は、ちょうどセーターを脱いでいるところだった。すぐに博人に気付き、それを着直す。
「きゃあああああああああああ!!」
着直したら、急に悲鳴をあげた。
「やっべえ!」
それを聞いた博人は即座に逃げの姿勢をとった。下手に逃げれば警察行きだ。だが、身体が勝手に動いてしまう。
「美香!痴漢!痴漢がいるよ!捕まえて!」
尚も少女は叫んでいる。痴漢かよ、と博人は後ろを振り向きながら疾走するが、すぐに前を向いた。いくら広い家とは言え、走り続ければいつかは壁にたどり着く。前を向かねば危ないのだ。
と、その瞬間、
「はいは~い。ここまでね」
そんなハスキーな声が聞こえた後、頭に衝撃が走った。そして博人は、静かに意識を失った。
声が聞こえる。
「だから、警察に連れてった方がいいよ!」
これはさっきも聞いたばかりの声。あの悲鳴の声だ。
「本当に覗かれたの?お姉ちゃんは自意識過剰なとこがあるから、今回も」
別の声。ハスキーボイスだ。
「違う!確かに覗かれたの!」
またさっきの悲鳴声の主。
「まあまあ、莉緒も落ち着いて」
また別の声。今度は聞いた事のない声だ。
博人はゆっくりと瞼を開いた。少しずつ見えてくる景色に、ここは室内であると悟る。えらく豪華そうな絨毯が見えた。そして、腕の感触から、
自分が縛られている事に気付いた。
「……捕縛?」
ぼそりと呟きながら、博人は顔を上げた。
「おや、目覚めたみたいだね」
ハスキーボイスがこちらを覗き込んでくる。黒髪を肩まで伸ばし、その表情はどこか暗い。
(せっかくの美人顔が台なしだ)
およそこの場合に不適切な考えで、博人は少女を見た。
「さっきはごめんね?いきなり殴って気絶させちゃって」
なるほど、と博人は納得した。つまり殴られて気絶して縛られてるんだな、と。
(覗いちゃったから殴られたんだろうが……何故縛る?)
当然の疑問は口に出さない。いや、出す暇もない。
「ちょっとあんた!自分がなにしたか分かってんの!?」
悲鳴声の少女が博人を指差してそんな事を言ってきたからだ。
(なにしたか……って、覗きだよな)
己の罪を確認しつつ、改めて悲鳴声の少女を見てみる。青みがかった黒髪をハスキーボイスの少女よりも長く伸ばし、端整な顔立ちは怒りに満ちている。
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