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「すいません。俺は見てしまいました。本当にごめんなさい」
博人は縛られたまま土下座した。上半身のみを縛られていた為、土下座は出来る。
「謝って済む問題じゃないわよ!こっちは肌を見られたのよ!?」
悲鳴声はヒステリックに喚くが、
「見られる程のモノは持ってないじゃん」
ハスキーボイスは冷静だ。
(確かにな……)
そんな風に思いながら、博人はそのままの姿勢で顔だけで悲鳴声の一部分――胸部を見た。お世辞にも豊満とは言えない。
(でも……)
今度はハスキーボイスを見る。こちらは対照的に、ふくよかな胸をしている。
(こっちは自己主張の激しい胸だぜ)
博人も健全な男子だ。反応するモノには反応する。だから、
「……さっきからやらしい視線を感じるんだけど?」
悲鳴声がじとっと博人を見てきた時は、心臓が飛び上がった。
「あの……そろそろ解いてもらってもいいですか?」
上体を起こし、懇願する。悲鳴声はまだ怒っているようで「駄目よ!」の一点張り。ハスキーボイスは「みゃはは」と笑いながら傍観している。
(俺の配達はここまでか)
博人は諦めた。『ご近所さんに手土産を渡して一気に親密になろう』作戦の残りは母に任せよう、と。
が、「ちょっと待ってて」
落ち着いた雰囲気の女性が博人の後ろに回り、縛っている紐を解いてくれた。これで自由だ、とばかりに博人は両手をぶんぶん振った。実際のところ、少し痺れていたからなのだが。
「あーっ!お母さん、なんで解いちゃうの!?」
どうやら悲鳴声の母親らしい。ハスキーボイスは悲鳴声と姉妹だろうから、彼女の母親でもあるだろう。
(って、母親?)
それに博人は違和感を感じた。母親にしては若すぎる。こんなにも大きな子供(高校生くらい)が二人もいるのに、まるで女子大生みたいだ。うちの母親といい勝負だ、と塔子を思い浮かべてしまう。
「いいから。莉緒ちゃんは落ち着いて」
悲鳴声は莉緒とかいうらしい。その一言で、彼女は大人しくなった。
「さて……一応確認しときたいんだけど」
博人に向き直り、童顔の母親は続けた。
「あなた……博人くんよね?」
急に名指しされて驚いた。だが、博人に覚えはない。この母親が一体誰であるのか。
「そうですが、あなたは誰ですか?俺はあなたのような美人に知り合いはいません」
名前を呼ばれた動揺からか、ついつい本音まで口にしてしまう。
「なんだ。覚えてないのね。でも、美人って……んふ」
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