とそあど

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「じゃあ剣道は辞めちゃったの?」 残念そうに美香が表情を陰らせる。 その言葉が胸にぐさりと刺さった。辞めた事は確かだ。だが、面と向かって言われるのには抵抗がある。 「……あれ?俺が剣道してたって事、美香ちゃんは知ってたの?」 だから、博人は話題を変える事にした。 「知ってたよ。小さい頃からやってたじゃん」 「そうだっけ」 「そうだよ」 いつ頃から剣道をやり始めたのかなんてまったく分からない。気付いたら剣道をやっていたのだ。それも楽しく。 「そう。辞めたの。根性なしなのね」 莉緒が嫌みを込めて言ってくる。博人はその視線のどこかに怒りを感じた。 「なんだよ。喧嘩売ってんのか?」 事実なのだが、言い方が気に入らなかった。博人は莉緒を睨み、反撃を開始する。 「別に。そんなつもりじゃないから」 ぷい、と顔を背けられた。その様は、博人の目には怒っているように映った。 その間に美香が入り込み、 「そうそう。今はお姉ちゃんも剣道やっててね?結構強いんだよ~。部活でも部長だよ。あ、ちなみにボクはソフトボール部ね」 一気に早口でまくしたてた。 莉緒が剣道をしている。それは博人にとって羨ましくもあり、妬ましくもあった。剣道への欲求は、まだ捨てていない。いや、捨てられない。そんな簡単な感情ではないのだ。 「へえ。莉緒さんは剣道部か」 「なによ。文句ある?」 鋭く睨んでくる莉緒。それに負けじと博人も見返す。 「いや。まあ、頑張れよ」 励ましの挨拶までしてやった。その言葉でやっと莉緒の顔から緊張が解けた。心なしか、少し心を開いたかのような。 「い、言われなくても頑張るわよ!」 また顔を背けてしまう莉緒。なかなか戻さない。
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