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(じゃあ問題ないな)
おそらくだが、莉緒はそんな事はしない奴だ、と博人は思った。となれば、残る問題は……。
「おい」
不意に声をかけられた。なんだろう、と博人がそちらを見ると、
いきなり殴られた。
「うぐっ!」
その衝撃で軽く吹っ飛んでしまう博人。口の中で血の味がした。
「てめえ……莉緒さんを怒らせやがったな」
博人を殴ったその男は、がっしりとした体格だった。盛り上がる筋肉は日々のたゆまぬ鍛練を彷彿とさせる。
(ああ……もう一つの問題が来やがったな)
その男を見ながら、博人は呑気に考えていた。
要は三滝莉緒はこれから博人が通う学校では有名人なのだ。だから、当然ファンクラブぐらいある。その莉緒を怒らせる事で生じる問題は二つ。一つは莉緒がファンクラブの連中に怒っている理由を告げ口する。だが、それは莉緒の性格上有り得ない。もう一つの問題は、その辺りにいるファンクラブの連中に一連の騒動を見られる事だ。朝の道端なのだから、それは十分に有り得る。実際に有り得たわけだが。
「許せねえ。俺達の莉緒さんを怒らせるなんて、許せねえ!」
いつからお前達の物になったんだ、という言葉は飲み込む。これ以上逆上させたくない。
男は手を組んでボキボキと鳴らし、博人に歩み寄った。だが、博人は動かない。転校初日で問題は起こしたくないのだ。殴られる事は承知の上。何発か我慢するだけだ。
男は拳を硬く握った。そして構える。照準を博人の頭部に合わせ、それを放つ。
「喰らえや!」
そして、
拳は止まった。
「やめろよ」
男の手首を掴み、その拳を止めているその少年は、髪を少し長く伸ばし、茶色に染めている。
博人は呆気に取られた。何故俺を助けてくれたのだろう、と。
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