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「……それでは、これで私の話を終わります」
壇上の校長は長い式辞を終えた。始業式恒例、出だしが校長のお話。その校長にもよるが、基本的に生徒達にとっては長く感じる。この校長の話も多分に漏れず、長く感じた。
「それでは各クラスごとに解散」
マイクで大きくした教頭の声が体育館中に響き渡る。途端にざわつきが大きくなり、出口に近い一年生から退館していった。
博人は二年生。それも転校生だ。同学年で知った顔と言えば、秋仁と莉緒ぐらいである。一年生では美香だけだ。美香にしても今年から高校に入学するのだから、周りは知らない人間ばかりのはずである。そこのところは似た境遇かな、と博人は共感した。
「あ~……クソ長かったな、博人」
大きく伸びをしながら秋仁がぼやいてきた。ワイルドな顔はそんな時も気が抜けていないような表情だ。
「ああ。つか、本当良かったよ、同じクラスで」
その表情にはもう慣れた博人は、同じクラスになれた喜びに満ち溢れていた。知り合いがクラスに一人くらいいれば、博人なら一年間楽しくやれる。それが博人の性分だ。
「さてさて、お前はなに部に入るんだ?今のうちに聞いときたいぜ」
急に秋仁がそんな事を言い出した。
その言葉を聞いて、昔の博人なら即答しただろう。だが、今は違う。博人を取り巻く環境は変わったとは言え、約束したのだ。二度とやらない、と。だから、彼はやれない。
「……適当に面白そうな部に入るよ」
声のトーンを変えないように、精一杯そう言い切った。秋仁は顎に手をあて、「ふーん」とだけ言った。声のトーンが落ちたのを、秋仁は敏感に感じ取ったのだ。
(流石は幼なじみといったところか)
秋仁は自画自賛した。
「バレーやらねえか?」
こいつが嫌がる話は避けるか、とばかりに秋仁は話題を変えた。実際のところ、本気で言ってはいない。半ば冗談で言っている。博人にもそれが通じたのか、
「俺がバレーをやれるとでも?」
彼は冷たくあしらっただけだった。
博人がこれから通う高校・高天原(たかまがはら)高校のバレー部は、部員が少ないわけではない。レギュラーメンバーに補欠、マネージャー数名と、数は揃っている。実力もそれなりで、幾度となく県大会に出場している。
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