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そして悲しげな顔を平野に見せ、別れを告げた。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
その背中に声をかける平野。ぴたりと足を止め、博人は平野に顔を向け直した。
「まだなにかあるのか?」
「や、それはその……私は……あんたを……その……」
平野は顔を俯け、もじもじとしながら言葉を濁らせた。それはなかなか聞き取れないので、
「なにか言う事があるなら言ってくれ。最後かも知れんのだし、未練が残るのは嫌だからな」
博人は平野に数歩近づいた。
「最後っ……て……」
その瞬間、平野は硬直して、動けなくなった。頬は心なしか赤く、息遣いも聞こえてくる。
それもそのはずだった。
博人はあまりにも平野に接近していた。その近さたるや、顔と顔の距離が数センチほど。平野の息遣いが実によく聞こえる。
「ぁ……ぅ……」
平野はか細い声を出す事しか出来なかった。博人は怪訝な表情で平野を超至近距離で見つめ、
「どうした?言いたい事は?」
先程の話を促した。平野は必死に声を絞りだし、
「は……離れなさい、よ……」
それだけ言えた。
「ああ、悪い」
博人は謝り離れたが、平野の高鳴りっぱなしの鼓動は治まらない。
「もぉ……馬鹿」
「悪い。それで?」
「なによ……」
「さっきの話は?」
「もういいわよ!さようなら!」
平野は言い捨て、博人に背を向けて走り去った。
博人はその背中に向かって大きく叫んだ。
「じゃあな!縁があったらまた逢おうぜ!」
平野はそれが聞こえたのか、一旦立ち止まり、
「わたしは逢いたくないわよっ!この馬鹿!」
博人に叫び返した。
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